関節リウマチとは

−生物学的製剤から人工関節まで−

関節リウマチについて


「関節の腫れ」が特徴的な症状であるあり関節リウマチは、何らかの原因で正常な免疫機構に異常が生じた際におきる自己免疫疾患の一つです。手首や手足の関節に多くみられ、関節や滑膜に炎症が起こることで関節の「腫れ」や「痛み」が生じる病気です。

 

この炎症が長く続くと、やがて軟骨や周囲の靱帯が蝕まれ、骨が萎縮・破壊されていき(構造的破壊)、やがて日常生活に支障が生じます(機能的障害)。

 

慢性的・持続的な炎症が全身の臓器(肺、心臓、腎臓など)に悪影響を及ぼすため、早期に適切な治療が必要です。

【関節リウマチによく見られる症状】

手のこわばり            微熱           関節の腫れ         関節の変形(手・足)

関節リウマチの滑膜炎と関節破壊、國府幸洋、千葉県柏市、名戸ヶ谷病院

詳しい原因は不明ですが、遺伝的な要因に加え、出産や喫煙、肥満、感染症などといった環境要因が重なって発症すると考えられています。男女比は1対4と女性に多く、30-50歳代に最も多く発症するといわれています。人口のおよそ0.5%~1%の方が病気にかかっているとされ、日本では約70-100万人がこの病気にかかっていると推測されています。

 

これまでの研究から、関節リウマチによる関節破壊は発症2年以内に急速に進行することが明らかになっており、より早期に診断し、積極的に治療を行うことが重要視されています。従来広く用いられてきた診断基準(1987年)は“早期”関節リウマチの診断には不向きなため、現在では米国リウマチ学会(ACR)と欧州リウマチ学会(EULARが合同で作成した新しい分類基準(2010年)が用いられるようになっています。

関節リウマチ診療の変化


近年、関節リウマチ診療を取り巻く環境は劇的に変化しています。かつては難病とされ「慢性」関節リウマチと呼ばれていましたが、現在は抗リウマチ薬の進歩によって、「寛解」と呼ばれる痛みや炎症がほとんど無い状態にすることが可能となってきました。

 

アンカードラッグ(治療の中心となる薬)であるメトトレキサートの保険収載(1999年)と用量増量の承認(2011年)、そして最新のバイオテクノロジーにより開発された生物学的製剤(2003年より承認)により、非常に高い治療効果が期待できるようになりました。

【生物学的製剤の優れた治療効果】

投与前                   投与後(3ヶ月)                

滑膜肥厚スコア:Grade 3 (Marked)      滑膜肥厚スコア:Grade 0 (absence)

  PDスコア:Grade(Moderate)          PDスコア:Grade 0 (absence)

 

   部位:左手関節尺側、PDPower Doppler、使用薬剤:セルトリズマブペゴル

解説)メトトレキサートで効果不十分なため生物学的製剤を使用したところ、滑膜炎(PDシグナル)は完全に消失した。

PDシグナル(オレンジ色):関節リウマチにおける局所の炎症を直接反映し、疾患活動性や予後判定に有用な所見。

診療内容


2019年にリウマチ・手外科センターを開設しており、近隣の連携医療機関からの紹介患者様を中心に、関節リウマチと手外科の専門的診療に特化した外来を行っています。

 

当科では、主に関節リウマチを代表とする整形外科的症状を有する疾患を中心に、従来の単純X線検査だけではなく、超音波検査やMRIなど最新の医療技術を駆使して診断するよう心がけています。基本的に薬物治療が中心となりますが、必要な患者様については手術に至るまで、幅広い治療法を提案しています。

MRIによる滑膜炎の検出】

手関節尺側に高輝度信号を認める。

※ 脂肪抑制T2強調画像

 

【薬物治療】

関節リウマチ治療の基本は薬物治療となります。

 

最大の目的は、将来的な関節破壊の抑制ですが、日常生活の質に直結する痛みのコントロールも重要です。

 

従来型の抗リウマチ薬だけでなく、寛解を目指した生物学的製剤の導入と維持も行っています。既に病状が進行してしまった方や高齢の方では、関節内注射(ステロイド、ヒアルロン酸)や非ステロイド性抗炎症薬(内服、外用薬)、少量のステロイド薬の併用することで、平穏な日常生活を送ることができる、低疾患活動性を目指します。

【手術】

手術は関節変形や破壊が大きく進行してしまった場合、失われた機能の回復や進行の悪化を食い止めるために行います。

ただし、一度重い病状になると手術自体が複雑になり、思うような治療成績が期待できないだけでなく、リハビリに長期間を要します。

このため当科では、

  • 重度の神経障害や腱断裂といった深刻な機能障害に陥ることが予想される場合
  • 将来的に、特殊な手術インプラントの使用が予想される場合
  • このまま病気が進行したとき、手術や麻酔が困難な状態となることが予想される場合

 

以上のような病状に置かれた方には、先制治療(先を見通した手術治療や生物学的製剤の導入等)をおすすめしています。

 

他科の合併症がある方は、診療担当科と協力して診療しています。

【整形外科専門医・手外科専門医が診療するメリット】

関節リウマチの滑膜炎がもたらすもの、國府幸洋、千葉県柏市、名戸ヶ谷病院


関節症状や腱鞘(滑膜)炎の強い部位へ、関節内ステロイド注射やヒアルロン酸注射などで直接アプローチし、痛みを緩和させることが可能です。

 

万が一、関節変形や破壊が大きく進行してしまった場合でも、必要となる手術に関する情報提供を直接受けられます。

 

また、当科では患者様のかかりつけリウマチ医と共同で治療を行う、医療連携を行っています。手術やリハビリが終了した際、かかりつけのリウマチ医での継続診療が可能です。既に病状が進行しており、「関節の症状や見た目が気になる」「関節の変形が進行していて不安」な方は、かかりつけの医師に相談してみてはいかがでしょうか。

当科で用いられる関節リウマチの治療薬 −抗リウマチ薬など−


以下、当院で用いられる代表的な抗リウマチ薬について説明します。

 ◎ 抗リウマチ薬

関節の炎症や破壊を抑える薬です。

効果が出るまでに数ヶ月程度がかかります(平均23ヶ月)。薬の効果には個人差があり、複数の薬剤を併用することもあります。長期間の服用で効果が減弱することもあり、他の薬剤への変更も考慮します。

○ メトトレキサート(MTX)(商品名:メトトレキサート、リウマトレックスなど)

 

関節リウマチの治療において、世界的な標準薬(アンカードラッグ)です。

 

他の薬剤と比較し、効果発現が比較的早く(1-2ヶ月)、有効性も高いことが知られています。しかし、この薬剤単独では完全に関節破壊を食い止めることは困難です。他の抗リウマチ薬や生物学的製剤と併用することで、非常に高い関節破壊抑制効果を発揮することが世界中で報告されています。

 

特に、以下の予後不良因子を認めた場合、早期からこの薬の使用を考慮します。

  若年での罹患例

・ 高い疾患活動性(多数の関節が腫れたり、痛む場合)

  骨びらん(骨関節破壊の初期変化)

  リウマチ(RF)因子、抗CCP抗体の強陽性

  他の抗リウマチ薬の無効例

 

副作用として、口内炎、嘔気などの消化器症状、肝酵素上昇、脱毛、骨髄(造血)障害、日和見感染症が起こる場合があります。頻度は低いですが、骨髄障害や間質性肺炎、B型肝炎の再活性化、MTX関連リンパ増殖性疾患などもあげられます。副作用を予防するため、基本的に葉酸(商品名:フォリアミンなど)を併用します(週一回、メトトレキサート最終内服の翌々日)。ただし、葉酸を含むサプリメント・健康食品の摂取には注意が必要です。

【メトトレキサートの著効例】

  投与前                           投与後(2ヶ月)                

PDスコア:Grade(Moderate)                              PDスコア:Grade 0 (absence)

 

  部位:左小指MP関節、PDPower Doppler

【メトトレキサートの効果不十分例】

 投与前                     投与後(2ヶ月)                

PDスコア:Grade3 (Moderate)                        PDスコア:Grade 2 (moderate)

 

  部位:左手関節、PDPower Doppler

 

    サラゾスルファピリジン(商品名:アザルフィジンENなど)

軽症~中等症の関節リウマチに有効です。何らかの理由でメトトレキサートが使用できない場合にも使用します。単独では効果不十分であっても、他の抗リウマチ薬と併用することで、有効性の改善が期待できます。

副作用として、皮疹や肝機能障害、消化管障害、血球減少症がみられる場合があります。

 

    ブシラミン(商品名:リマチル、ブシラミンなど)

軽症~中等症の関節リウマチに有用です。サラゾスルファピリジンと同様、何らかの理由でメトトレキサートが使用できない場合にも使用します。単独では効果不十分であっても、他の抗リウマチ薬と併用することで、有効性の改善が期待できます。

副作用として、皮疹や消化器症状、口内炎、味覚異常、肝機能障害、腎障害(尿蛋白)がみられる場合があります。

    

    ○ タクロリムス(商品名:プログラフなど)

臓器移植時の免疫抑制に使用されていましたが、2005年に関節リウマチへの適応が認められました。適切な投与量を確認するために、血中の薬物濃度を測定する場合があります。

副作用として、腎機能障害、耐糖能異常、消化管障害(下痢、嘔気、腹痛)などがみられる場合があります。他の併用薬剤やグレープフルーツなどの食べ物に注意が必要です。

 

 ◎ 非ステロイド性抗炎症薬(ロキソプロフェン、ジクロフェナクNa、セレコックス、コカールなど)

関節痛を抑制する効果がありますが、関節リウマチにおける関節破壊抑制効果は認められません。

使用している抗リウマチ薬の効果が出てくるまで使用するか、抗リウマチ薬の効果不足分を補うため、補助的に使用します。副作用として消化器症状があげられます。長期的に服用する場合、腎機能障害に配慮して、アセトアミノフェンやオピオイド径の薬剤の使用を検討します。

 

◎ ステロイド薬(商品名:プレドニゾロンなど)

強力な抗炎症作用と免疫抑制作用があります。

歴史的には特効薬として大量に用いられたこともありますが、その後、副作用の問題が明らかとなり、現在では発症早期で炎症が強い場合や、抗リウマチ薬による治療効果が不足したりする場合、症状を和らげる目的(リリーバー)で少量を使用することがあります。

十分な量の抗リウマチ薬(メトトレキサートなど)や生物学的製剤を使用することで、ステロイドの減量や中止が可能です。その際、内科的合併症(腎機能障害、肺疾患の有無)や抗リウマチ薬により副作用を生じるリスクとのバランスが重要となります。一般に、ある程度進行した高齢者の関節リウマチでは、少量のステロイドが現実的な薬物治療となることも多いです。