デュピュイトラン拘縮 −最新の酵素注射療法−

デュピュイトラン拘縮について


デュピュイトラン(Dupuytren)拘縮とは、手掌から指にかけてひきつれができ、徐々に指が伸ばしにくくなる病気です。手のひら(手掌)の皮下にある手掌腱膜の線維(コラーゲン)が過剰に増殖し、紐状の拘縮索(こうしゅくさく)が形成されることが原因です。

 

デュピュイトラン拘縮、千葉県柏市、國府幸洋、名戸ヶ谷病院

【典型的なデュピュイトラン拘縮】

病気が進行すると指が曲がって伸びなくなり、手を使う動作がしにくくなって、指が日常生活に支障をきたします。

※ 日常生活の例:机に手をつく、手洗いや洗顔、握手、大きなものを掴む、車の運転、手を使うスポーツなど

最新治療:酵素注射療法(コラゲナーゼ注射療法)


従来、この病気には手術しか治療法がなかったため、新しい治療薬の開発が期待されていました。

 

今から20年以上前、Hurst博士らは、ある細菌が分泌するタンパク分解酵素(コラゲナーゼ)がデュピュイトラン拘縮の治療に有効であることを発見しました。この新しい酵素を用いた治療「酵素注射療法」は、アメリカでは2010年からFDA(アメリカ食品医薬品局)により認可され、既に7万人以上に使用されています。

 

商品名「ザイヤフレックス」注射剤は、既に世界30カ国以上で承認販売されていますが、ようやく日本でも製造販売が認可され、2015年9月から発売が開始されました。当院の担当医は、治験段階からこの新しい注射剤に注目していたため、市販後、速やかに「ザイヤフレックス」の使用を開始し、千葉県で初となる症例の治療を成功させています。その後も実施症例数は増加し、千葉県を含む関東圏内で有数の使用実績をあげています。

【酵素注射療法をご検討されている方々へ】

デュプイトラン拘縮に対する酵素注射療法を希望する問い合わせをいただいておりますが、現在、国内発売元(旭化成ファーマ)による「ザイヤフレックス注射用」の供給が停止しているため、当院を含めたすべての国内医療機関において保険診療に基づく同治療が実施できない状況となっております。このため、当院で治療(保険診療)を希望される方には、他治療法(手掌腱膜部分切除術などの手術治療)をご案内させていただいている状況です。

 

【国内発売元である旭化成ファーマHPより引用】

ザイヤフレックス®注射用(以下「本剤」)は、2020年3月上旬に弊社在庫が消尽し国内への供給が不可能な状態となり、2020年12月1日に国内流通中の本剤すべての使用期限が切れたため、現在国内では本剤をご使用できない状況となっております。 本剤は提携先のエンドベンチャーリミテッド社(本社:アイルランド、以下「エンド社」)にて製造され、供給を受けた弊社が国内で販売してまいりました。 しかしエンド社の意向が変わり弊社への供給が2019年以降停止されたことから本供給問題が発生しました。本件の原因は本剤の安全性や有効性に関わるものではありません。 弊社は本剤の供給再開を求めてエンド社と係争中ですが、現時点では供給再開の目途が立たない状況です。 そのため医療関係者の皆様におかれましては、他治療法への切り替えをお願い申し上げます。

【従来の手術】

手術では、手のひらや指の皮膚を切開して、デュピュイトラン拘縮の原因となっている拘縮索を切除します。

(※     拘縮索:手のひらや指にある腱膜などにコラーゲンが異常に沈着して形成された太い束(コード)。)

 

従来から行われている手術方法の多くは、

    全身麻酔や伝達麻酔(腕の付け根であるに注射)

・  入院を要すること

    比較的大きな皮膚切開を要すること

    神経血管損傷のリスク

などが問題視されています。手術の利点としては、複数指(たとえば中指・環指・小指の3本)の治療が同時に行えることです。

 

手術と酵素注射療法、どちらの治療でも再発の危険性があります。再発後の治療については議論の余地がありますが、外来通院で治療が行える酵素注射療法は非常に魅力的な治療です。自験例では、手術後の再発例においても、酵素注射療法は優れた治療効果を発揮しています。一方、手術後に再発したデュピュイトラン拘縮に対する手術は、患部の組織硬化や癒着が強いこともあり、神経血管損傷リスクが高いと考えられます。

 

手術と酵素注射療法の両方を経験した方へのインタビューでは、「最初に受ける治療として酵素注射療法が優れている」と聞いています。

適切な治療を受けるために


最初に注意しなければならないことは、この優れた治療法に関する知識がまだ十分普及していないということです。

 

「手術でしか治らない」ということはありません。(※患者さんご自身の病態や体質、社会的背景により推奨される治療法が異なります。詳細は、当院リウマチ・手外科外来にてご相談ください。)

 

次に、この薬剤を使用できるのは、デュピュイトラン拘縮に関する十分な知識と経験を有し、かつ治療手技および適正使用に関する講習を受講した医師と定められています。本邦では、

・ 日本手外科学会認定 手外科専門医 であること、かつ

・ デュピュイトラン拘縮酵素注射療法に関する適正使用講習を修了した医師

に限られます。

 

当院のリウマチ・手外科センターでは、「まだ何とか使えているから…」「入院や手術が怖い」といった理由で治療をためらっていた方に、最新の酵素注射療法を含め、最適な治療法を提案します。

 

【デュピュイトラン拘縮に対する最新治療:酵素注射療法の実施施設について】

デュピュイトラン拘縮研究会 

実施施設紹介:http://www.dck.jp/general/facility.html

 

適正使用講習修了医:

http://www.dck.jp/general/doctor.html

 

※ デュピュイトラン拘縮研究会について:酵素注射療法の適正使用の浸透並びに推進を唯一の目的として、一般社団法人日本手外科学会と開発会社である旭化成ファーマ株式会社の共催により設立されました。ホームページを通じ、適正使用講習を運営しています。また、実地講習会の開催、酵素注射療法の実施施設の紹介を行うなどして、本療法の適正な普及を目指しています。

酵素注射後の後療法・リハビリについて


患部に薬剤を注射した翌日、指の伸展処置(事前に局所麻酔を施行)を行います。

当院では、処置後の疼痛を緩和させるため、消炎鎮痛剤の内服薬を処方しております。

デュピュイトラン拘縮、酵素注射療法、ザイヤフレックス、國府幸洋、千葉県、柏市、名戸ヶ谷病院

病状に応じて1週間程度の指伸展位固定(アルフェンスシーネ)を行います。処置前に指屈曲拘縮(指が曲がった状態)が強い方は、さらに伸展位固定の期間を延長するか、夜間のみ指伸展スプリント(装具)を着用していただきます。

 

PIP関節(指の第2関節)の治療を受けた方は、酵素注射後に1週間の伸展位固定を行った後、カペナーと呼ばれる装具を着用していただく場合があります。

 

リハビリに関しては、手外科専門医と担当リハビリスタッフ(作業療法士、理学療法士)とで毎週カンファレンスを行い、リハビリ方法と進捗状況について検討を行っています。

当院での酵素注射療法による治療例


【酵素注射療法 症例1(MP関節)】

 治療前                      治療後(小指:3週間)

症例)この症例では、酵素注射療法(コラゲナーゼ製剤の注射、翌日の伸展処置を含む)で治療しました。治療効果には個人差があり、また感染症や変形再発、皮下出血、皮膚裂創などのリスクを有します。良い状態を維持するためには手指の可動域訓練などの後療法に取り組む必要があります。

【酵素注射療法 症例2(PIP関節)】

治療前                       治療後(小指:2週間)

症例)この症例では、酵素注射療法(コラゲナーゼ製剤の注射、翌日の伸展処置を含む)で治療しました。治療効果には個人差があり、また感染症や変形再発、皮下出血、皮膚裂創などのリスクを有します。良い状態を維持するためには手指の可動域訓練などの後療法に取り組む必要があります。

【酵素注射療法 症例3(PIP+MP関節)】

  治療前                 治療後(小指:3ヶ月)

症例)この症例では、酵素注射療法(コラゲナーゼ製剤の注射、翌日の伸展処置を含む)で治療しました。治療効果には個人差があり、また感染症や変形再発、皮下出血、皮膚裂創などのリスクを有します。良い状態を維持するためには手指の可動域訓練などの後療法に取り組む必要があります。

【酵素注射療法 症例4 「他院手術後の再発例(2指病変:MP、PIP関節)」】

 治療前(他院での手術後9年)      治療後(中指:3ヶ月、小指:1ヶ月)

症例)この症例では、酵素注射療法(コラゲナーゼ製剤の注射、翌日の伸展処置を含む)で治療しました。治療効果には個人差があり、また感染症や変形再発、皮下出血、皮膚裂創などのリスクを有します。良い状態を維持するためには手指の可動域訓練などの後療法に取り組む必要があります。

【酵素注射療法後の伸展処置】

治療後のリハビリについて


手術後の外来診察において、効果的な手指・手首の動かし方や日常生活上の注意点を説明しています。

 

主治医によって通院でのリハビリが望ましいと判断された方は、当院2階のリハビリテーション室において、担当リハビリスタッフによるハンドセラピーを受けていただくことも可能です。