生物学的製剤による関節リウマチ治療

−当院で用いられる薬剤を中心に−

関節リウマチ診療におけるパラダイムシフト


近年、関節リウマチ診療を取り巻く環境は劇的に変化しています。かつては難病とされ「慢性」関節リウマチと呼ばれていましたが、現在は抗リウマチ薬の進歩によって、「寛解」と呼ばれる痛みや炎症がない状態にすることが可能となってきました。

 

アンカードラッグ(治療の中心となる薬)であるメトトレキサートの保険収載(1999年)と用量増量の承認(2011年)、そして最新のバイオテクノロジーにより開発された生物学的製剤(2003年より承認)やJAK阻害剤などにより、非常に高い治療効果が期待できるようになりました。

【生物学的製剤の優れた治療効果】

投与前                   投与後(3ヶ月)                

滑膜肥厚スコア:Grade 3 (Marked)      滑膜肥厚スコア:Grade 0 (absence)

  PDスコア:Grade(Moderate)          PDスコア:Grade 0 (absence)

 

   部位:左手関節尺側、PDPower Doppler、使用薬剤:セルトリズマブペゴル

解説)メトトレキサートによる薬物治療では効果不十分であった症例。生物学的製剤(シムジア:セルトリズマブペゴル)を使用したところ、滑膜炎(PDシグナル)は完全に消失した。

 

※ PDシグナル(オレンジ色):関節リウマチにおける局所の炎症を反映し、疾患活動性の評価や寛解達成の判定に有用な所見。

生物学的製剤について  −当院で使用可能な薬剤を中心に−


生物学的製剤とは、関節リウマチの病態において重要な役割を果たすサイトカイン(TNFIL-6など)や、特定の炎症細胞どうしの相互作用を標的とする分子標的薬の一つです。なかでも、最新のバイオテクノロジーによって製造される薬剤を生物学的製剤と呼びます。

 

以下、当院で用いられる代表的な生物学的製剤について説明します。

   ○ インフリキシマブ(商品名:レミケード)

            2003年に日本で承認されたキメラ型抗TNFモノクローナル抗体製剤であり、最も歴史のある生物学的製剤です。抗体(中和抗体)の発現や、効果減弱を予防するために、メトトレキサート(MTX)を必ず併用する必要があります。効果が十分でないときに、投与する量を増やしたり、投与する間隔を短縮したりすることが認められているメリットがあります。

 

 一般的には、8週間に一度(維持期)の間隔で点滴投与されます。

    ○ エタネルセプト(商品名:エンブレル)

         2005年に承認された可溶性TNFレセプターとヒトIgG免疫グロブリンの一部)との融合蛋白製剤です。

12回の皮下注射によって投与されます。通院回数が頻回となりますが、自己注射が修得できれば安全で使いやすい薬剤です。

  ○    アダリムマブ(商品名:ヒュミラ)

2008年に承認された完全ヒト型抗TNFモノクローナル抗体です。その投与間隔と簡便さから、欧米では最も使用されている生物学的製剤です。必ずしもメトトレキサートを併用する必要はありませんが、十分量のメトトレキサートを併用した際、優れた有効性を発揮できるとされています。投与方法の工夫や製剤の改良がなされ、従来の注射時痛はかなり改善されています。

2週間に1回、皮下注射で投与され、自己注射が可能な薬剤です。

    ○ ゴリムマブ(商品名:シンポニー)

2011年に承認された完全ヒト型抗TNFモノクローナル抗体です。効果不十分な場合、投与する量を増やすことが可能です。

4週毎に皮下注射で投与されます。月に1回は通院する必要がありますが、自己注射が困難な方に適する薬剤といえます。

    ○ セルトリズマブペゴル(商品名:シムジア)

2012年に承認された完全ヒト型抗TNFモノクローナル抗体です。従来の薬剤と比べ、TNFに対する結合親和性を高め、患部への組織移行性を向上させたとされています。

2週間に1回、皮下注射で投与され、自己注射が可能な薬剤です。

    ○ トシリズマブ(商品名:アクテムラ)

2008年に承認されたヒト化抗IL-6受容体モノクローナル抗体製剤です。この薬剤は、関節リウマチの病態に重要な役割を果たすサイトカインの一つであるIL-6と、その受容体との結合を競合的に阻害することで、優れた効果を発揮します。多くの臨床研究において、単独投与でも優れた有効性を持つことが報告されています。生物学的製剤のなかでも、メトトレキサートを使用できない方におすすめできる、数少ない有望な薬剤です。

4週毎の点滴投与、または2週毎の皮下注射によって投与されます。疾患活動性が高い方や体重が多めの方には、投与用量を調節できる、点滴投与をおすすめしています。

     ○    アバタセプト(商品名:オレンシア)

2010年に承認された、生物学的製剤の中で唯一、T細胞を標的とする薬剤です。T細胞は関節リウマチの病態に重要な役割を果たし、炎症の促進や破骨細胞の分化に関与しています。この薬剤は、抗原提示細胞とT細胞間の共刺激シグナルを阻害し、T細胞の活性化を阻害(T細胞選択的共刺激調節薬)することで、関節リウマチに対する効果を発揮します。感染防御にかかわる免疫システムに影響を及ぼしにくいという特徴が期待され、比較的高齢の方や感染症リスクの高い方に用いられることが多いです。

4週毎の点滴投与、または週1回の皮下注射(自己注射も可能)によって投与されます。

     ○    サリルマブ(商品名:ケブザラ)

2017年に承認された、ヒト型抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体製剤です。この薬剤は、関節滑膜での炎症に重要な役割を果たしているサイトカインであるIL-6の作用を抑制する薬剤です。

2週毎の皮下注射によって投与されます。一回200mg150mgのシリンジ規格がありますが、通常は200mg規格で開始し、寛解が達成・維持された方では、150mgへ減量することも可能です。特に、既存の薬剤では十分な効果が得られなかった患者さんに有望な、皮下注射対応(自己注射も可能)の薬剤です。